「千代ヶ崎砲台跡サポーターの会」の活動が横須賀を元気にする

撮影/小林大起
撮影/小林大起

 

1. 全国的な課題として

 

現在我が国は、多くの課題を抱えています。なかでも「人口減少」と「地方の衰退」は大変に深刻な問題として横たわっています。総務省統計局によれば、令和4(2022)年4月1日の総人口の推計値は1億2519万人で10年前の平成24(2012)年10月の1億2752万人から233万人の減少です1
内閣府の『令和3年少子化社会白書』によれば、日本の人口は2053年には1億人を割り9,924万人となり、2065年には8,808万人となることが予測されています2また、同白書によると令和2(2020)の65歳以上の人口は28.8%であるのに対して、0から14歳までの年少人口の割合は12.0%です。つまり我が国は65歳以上の人口が全体人口の21%以上を超えた「超高齢社会」であり、少子化は今後一層進んでいきます。
少子化の要因について内閣府は、日本では、諸外国と比べて結婚と出産が密接な関係にあることが特徴とした上で、これを前提に少子化の要因として①未婚率の上昇、②晩婚化、③夫婦の出生力の低下(夫婦の持つ子どもの人数が少なくなっている)を挙げています。これらの要因を解消するのは大変難しく、令和2(2020年の合計特殊出生率(1年間の出生状況に着目したもので、その年における15歳から49歳の女性の出生率を合計した数値)は1.34になり平成27(2015)年からは毎年減少しています注3)。よって少子高齢化の現状では、自然増になることは非常に困難です。
人口減少と少子高齢化が進むと、経済が縮小し、社会保障の維持が困難になり、地域社会では過疎になり衰退などが起こると言われています。地域の人口を維持するためには、自分の住んでいる地域からの転出を少なくすることと、他の地域からの転入を多くすることの二つしか方策はないのです。そのために、自治体では例えば、子どもの医療を無料化したり、住宅に補助をだしたりしていますが、多くの自治体でも同じような施策を行っており、効果に疑問があるところもあります。

 

2. 横須賀市の人口についての課題

 

『令和3年度版横須賀市統計書』4によれば、横須賀市の人口のピークは平成5(1993)435,337でした。しかし令和3(2021387,289になりピーク時から48,048人の減少になりました。また、同統計書の14. 年齢階級別人口の比率見ると令和3(2021)年10月65歳以上は32.05%であり、0から14歳までの構成比率は10.41%しかありません。全国平均の上を行く「超高齢社会」で少子化が一層進んでおり、横須賀市で自然増を期待することは非常に困難です。
しかし、私が一番問題だと思っているのは、横須賀市の社会減(出人口が入人口を上回り、人口が減少すること)の多さです。『神奈川県人口統計調査第6表「市町村別人口増減及び増減率」の平成28年(2016)から令和3年(2021)までの社会増減(転入、転出の差)を見ると、神奈川県は転出者より転入者が多く206,338人の社会増になっています。しかし、横須賀市は県でワースト1位の社会減が平成28(2016)年から連続して続いており、7,249の社会減になっています。例えば、似たような規模である藤沢市は社会増が継続的に続いており、平成28(2016年から19,417人の社会増になっています5
転出や転入には就職や進学、婚姻や子育て等様々な理由があります。また、横須賀の特別な事情として自衛隊関係者が多いということもありますが、社会減の多さは大きな課題であると考えます。

 

撮影/小林大起
撮影/小林大起

3. 住みよいまちと文化

 

なぜこのような社会減が起きるのか、私なりに「文化」ということを視点に考えて見ます。
平成14年の文化審議会では「文化」を「人間が自然とのかかわりや風土の中で生まれ育ち身に付けていく立ち居振る舞いや、衣食住をはじめとした暮らし、生活様式、価値観など、人間と人間の生活にかかわることの総体を意味する。」としています6。このような考え方に基づくと、「文化」は、私たちの生活や活動にとても関係してきます。つまり「人間と人間の生活をより良く変化させるものである。」と私は考えています。
内閣府では毎年『国民生活に関する世論調査』を行っています7。その中で「今後は心の豊かさか、物の豊かさか、どちらに重きをおくか」という問いに対しては、昭和53(1978)年を境に「心の豊かさを大事にする」という回答が「物の豊かさ」を上回りました。それ以後は「心の豊かさを大事にする」という回答は現在まで60%以上を示す年も多くありますグラフ1
グラフ1:『国民生活に関する世論調査』昭和47年から令和元年を対象に、今後の生活の仕方として,心の豊かさと物の豊かさのどちらを選ぶかへの回答を集計
グラフ1:『国民生活に関する世論調査』昭和47年から令和元年を対象に、今後の生活の仕方として,心の豊かさと物の豊かさのどちらを選ぶかへの回答を集計
さらに文化庁では『文化に関する世論調査』を昭和62(1987)年から令和2年(2020)にかけ、調査を8回行っています8その中でも「文化的な活動」や「地域の文化的な環境」については60%から70%を上回りとても大切であるという調査結果があります。
実際に設問と回答を見ていきましょう。「あなたは、この1年間に文化芸術を鑑賞したことがありますか」という質問に対して、「ある」と回答した人の率は各年で以下のように年を追うごとに文化芸術の鑑賞は増加しています。これは文化芸術を鑑賞しようとする意識・機会だけでなく、文化施設の充実も関係しているのかもしれません。
昭和62(1987)年7月調査
26.7%
平成8(1996)年11月調査
54.9%
平成30(2018)年度調査
53.9%
令和元(2019)年度調査
67.3%
次に〈「伝統的な祭りや歴史的な建物などの存在が、その地域の人々にとって地域への愛着や誇りとなる」との考え方について、あなたはどのように思いますか。〉という質問に対しては、以下のように「そう思う・どちらかといえばそう思う」が圧倒的に優勢な回答が得られています。この結果から、地域の文化財は地域の人々の愛着や誇りを醸成し地域の絆つくりの強い要因となり得ます。

 

 
平成28年度
平成30年度
令和2年度
そう思う・どちらかといえばそう思う
90.1%
74.9%
79.3%
そう思わない・どちらかといえばそう思わない
7.8%
13.5%
11.1%
わからない
2.1%
11.6%
9.6%

 

次に〈「伝統的な祭りや歴史的な建物などの存在が、その地域の人々にとって地域への愛着や誇りとなる」との考え方について、あなたはどのように思いますか。〉という質問に対しては、以下のような回答が得られています。この結果から、地域の文化財は地域の人々の愛着や誇りを醸成し地域の絆つくりの強い要因となり得ると思われます。

また、「あなたは、文化芸術を鑑賞したり習い事をしたりする機会や文化財・伝統的まちなみの保存・整備など、お住まいの地域での文化的な環境に満足していますか」という質問では、肯定的な回答が減少しています。ここから、行政等が実施する文化的事業等に厳しい目が注がれるようになっており、人々はより文化的な環境を望んでいるように思われます。

 

 
平成28年度
平成30年度
令和2年度
そう思う・どちらかといえばそう思う
53.6%
33.5%
36.5%
そう思わない・どちらかといえばそう思わない
37.7%
40.3%
37.2%
わからない
 8.7%
26.2 %
26.2%
最後に、まちづくりに関する調査を見ていきましょう。日経BP総研は、毎年『シティブランド・ランキング住みよい街』9を発表しています。令和3(2021)年もウェブ調査で、20代以上のビジネスパーソンに対して「安心・安全」「快適な暮らし」「生活の利便性」「生活インフラ」「医療・介護」「子育て」「自治体の運営」「街の活力」という8つの分野・合計39項目で、自分が住んでいる市区に対してどのくらい住みよいと感じているかを5段階で評価し、ポイントの合計を偏差値化して住みよい街のランキングを出しています。
昨年は居住者による回答者の合計が20人以上となる349市区のデータを基に作成してあります。その結果、全国第1位は千代田区、第2位は武蔵野市でした。神奈川県では、全国10位に藤沢市、24位に海老名市が入っています。では横須賀市はというと、公表されている200位にも入らず順位は不明です。
横須賀市が上位になった市区に対して劣っているかと言うと、私は、自然や施設、行政サービスの面などを見てもそのようなことはないと思っています。なぜこのような結果になったのかと考えると、横須賀市の良さに対しての理解不足、地域活動に参加していない無関心さなどからくる、「住民の文化に対する意識の低さ」の問題もあるように推察します。
横須賀市の『人口ビジョン』10によると、横須賀市の人口は2045年には30万人を割り込むことが予想されています。しかも若年層の定住志向はそれほど高いとは言えないという記載があります。また、横須賀市のイメージは外国人との交流以外それほど高いとはいえず、住環境に関するイメージは弱いというアンケート結果がでています。

 

撮影/小林大起
撮影/小林大起

 

4. 「千代ヶ崎砲台跡サポーターの会」の活動の意義

 

ここまで横須賀市に関する調査を見てきましたが、こうしたまちに住む私たちにとって、「サポーターの会」の活動は、どんな意義があるのでしょう?
サポーターが、自分の興味や関心があることに対し、学習する機会が用意され、自ら学習し、その成果を生かしてガイドを行うことは、まさしく生涯学習社会を実現しています。これからは、このような社会の実現が重要とされている時、とても優れ活動であると考えます。これがつ目の意義です。
さらに、このような活動を通して「横須賀にはこんなに素晴らしい歴史や伝統がある」「横須賀にステータスを感じている」「もっとより良くしていこう」などの意識を強くお持ちになっていると感じています。
このような意識は、自分のまちに愛着や誇りを持ち、住みよくしようと行動していきます。そして多くの方々にこの意識を広めることにもなります。これは人がまちへ定着する大きな要素なのです。さらにまちのイメージも向上し、多くの人が憧れるようになります。これがこの活動の、大切なつ目の意義です。
次に、ガイドは「人に伝える」という活動です。サポーターが千代ヶ崎砲台跡のことを伝えることにより、多くの方に何らかの良い影響を与えているであろうと思っています。ガイドを聞いた人たちは、千代ヶ崎砲台跡の歴史や構造を知ることだけでなく、現在の世界状況から平和について考えることができ、また真摯にガイドをする姿勢に触ることで、多くの方々に良い影響を与えています。このことが、意義の3つ目です。
次に「観光」についてです。観光はとても裾野が広く、地域の経済、雇用、活性化に多大な影響を与えています。千代ヶ崎砲台跡に多くの方々が足を運んでくれています。横須賀以外の方も多くおいでになり、ガイドの活動に対して大変喜んでもらっています。このように観光への寄与が4つ目の意義です。
文化財が史跡や日本遺産になれば、それだけで多くの方が来るというような時代は遠くに過ぎ去り、様々な努力をしなければ、人は訪れてはくれません。その中で、この会の活動は、大変に評価が高く、市民の方々に文化財として認知や意識も高まりつつあります。意義の5つ目としては、文化財の活用と、その価値を多くの人に広めることが挙げられます。
観光庁の「観光ビジョン」(注11)である「住んでよし、訪れてよしの国づくり」の「国づくり」を「まちづくり」に変えて考えれば、この様になると思います。
  • 住んでよし……まちに愛着や誇りを持ち大切にする→住み続ける人が増える。
  • 訪れてよし……住んでいる人がまちを大切にしていれば、訪れる方も快い憧れのまちになり、転入者も観光客もさらに多くなる→社会増につながる。
  • まちづくり……多くの人が、積極的に関わることでまちをさらに住み良くできる。
「サポーターの会」の活動の意義は、ここまで述べた5つだけにとどまらず、多くの波及効果があると思っています。

 

5. 最後に行政の役割として

 

今まで述べてきたように、横須賀市の課題の一つは、自分たちのまちをより良くしていこうという住民意識の低さと、横須賀市の住環境に対するイメージの弱さと共に社会減の多さであると考えられます。このことを解消するには、広報活動も大切ですが、興味や関心のある活動に実際に参加して、実体験として横須賀の良さを知ることも大切だと考えます。
「サポーターの会」の活動で多くのサポーターの方が我が事として真剣に取り組んでいる姿を拝見するにつけ、地域のために実際に活動する方々の崇高な意識と行動力に敬意を表します。
そこで、行政が地域を活性化させる取り組みとして、そのまちを愛し誇りをもつ人を一人でも多く育てるために、「誰もが生きがいを追求できる社会」「文化を享受できる環境」「多様な地域参加ができる社会」などを大切にして、住民の意識を高めることが重要です。それには非効率で手間がかかっても、全ての年代が活躍できる場を作ることこそが、重要な施策だと考えます。
以上、この会の意義について考えてみました。自分たちの住むまちを元気にするために、これからも私なりに力を尽くしていきたいと思います。